香港と米中戦争Hong Kong and New Cold War

香港は米中「戦争」の中心部分だ。そして香港は徐々に選択肢を狭められつつある。

ここまでの簡略な経緯

まず香港返還、反中国系の書店への干渉や圧迫、そして逃亡犯条例に反対する大規模デモ。最近の選挙での民主派の大勝、こういう順序でわかりやすく説明してゆこう。

香港は、英国植民地返還で中国の「特別行政区」という位置づけに変わり、一国二制度を採用している。独自の通貨(香港ドル)を持ち、司法と立法が香港の制度の元で行われる。立法会(トップ画像が立法会)と呼ばれる立法組織はデモクラシー的で、香港市民が投票で選ぶ。1997年の返還後50年間、つまり2047年まで香港(とマカオ)がこの制度を続けることが中英間で合意された。

ところが、中国がこの流れに抗する行動を取り始めた。民主化や「反中国」の傾向が強い書店の店長が長期間行方不明になり、中国本土で発見される事件が相次いだ。これが2015年から2016年の初めのことである。よく知られているのは銅鑼湾(コーズウェイベイ)書店店主の失踪だ。この事件も含めて、中国当局が関与しているのが明確になり国際的な問題になった。

そして今年2019年3月になって、香港は新たな局面を迎えた。中国政府が逃亡犯条例の改正を主張し始めたのだ。香港の政治のトップ、行政長官は事実上中国政府が選べ、現長官は林鄭月娥氏である。改正内容は、香港警察が刑事事件の容疑者を確保した場合に、その容疑者の身柄を中国本土に移送extraditionできるようにするものである。

この案に反対した大規模なデモが何度も起きた。とくに6月には100万人が香港中心部の路面を埋め尽くし、香港の政治的な主体性を奪う法律に反対である強い姿勢を見せた。これは雨傘運動の流れがさらに広がったものと言える。雨傘運動とは、2014年に行政長官の決定方法を中国の意向に添うように改変しようとしたことに対する、学生の授業ボイコット運動だ。

香港政府と市民の間での政治的な不安定さは、経済を直撃し、香港のハンセン指数は2016年初めには20,000ポイントの大台を切り、現在も不安定な動きを続けている。GDPは2019年第3四半期の成長率がマイナスに転じた(前年度同月比でマイナス2.9%、注1)。

そして11月の香港区議会議員選挙は、驚くべき結果になった。投票率は71.2%と香港史上最高で、親政府派の大敗に終わり、民主派(ほぼ反中国派)が80%を越えた議席を獲得した。もっとも香港は小選挙区制で、民主派への投票は約60%であるが、それでも事前の予想を大幅に覆した。

ここまでをまとめると、北京からの「圧」が強く、香港の市民の差し迫った危機感が続き、それが選挙結果や土日に行われるデモとして現れたといえる。

香港の自由が制限されたら、それはもはや香港ではなく、中国大陸の制限的自由となにも変わらなくなる。

そしてここにアメリカが関与する。世界の警察官は辞めたが、覇権国であることは辞めないとでもいうように。アメリカ上下両院は「香港の人権と民主主義の確立を支援する法案」を可決(11月20日)、ドナルド・トランプ大統領はこの法案に署名(11月27日)。アメリカ政府が香港デモをバックアップしたことになる。

この署名に対し、中国外務省(外交部)は直ちに「香港行政と中国の内政に干渉」であり「あからさまな覇権行為」であると非難。

そして12月8日、100万人デモから半年が経過し再び80万人が街頭に立った。香港の人口は750万人なのでいかに多くの人々が直接に関与しているのが明白だろう。

これで香港がなぜ「米中戦争」の中心なのか、わかっていただけたと思う。

香港は、デモクラシー、自治(民族自決self-determination)というアメリカの基本的価値と、共産党一党支配、腐敗撲滅、強権的政治という中国習近平政権の基本的価値との対立の場になっているのだ。

香港、立法会入り口。関係者でも簡単には入れない(2019年12月、筆者撮影、以下同じ)

今後の香港と米中これからどうなりそうか

アメリカと中国は、ペンス副大統領が2017年末に述べたように「冷戦」に突入した。関税引き上げで競い、またハーウェイなどハイテク企業・産業に対して規制をかけた。これは経済的な問題での戦いである。この戦いはまだ続くであろう。ゲーム理論で言う典型的チキンゲームになっているので、米中ともに引くに引けないからだ。

そして次に来るのが資本の規制だ。すでにアメリカ議会の諮問機関が報告書で、「情報開示」が不十分な中国企業は株式市場で「上場廃止」を可能にする法案を提案している。

ここから先は予想になるので正確性は低いが、想定できることを記してみよう。

上記の法案が現実化すると、米中間の冷戦は資本市場での戦いという次の段階に進み、より一層激しくなる。日本企業はこのような動きに備えたほうがいいかもしれない。米中どちらかに偏った取引をしている企業にはリスクが大きいだろう。欧州市場やインド市場にアクセスすることもいままで以上に重要になろう。東南アジア各国は、米中のどちらのサイドに立つのか、いま以上に決めなければならなくなる。オーストラリアはすでに中国に引っ張られている。

そしてもしこの「新冷戦」がよりエスカレートするとするなら、基軸通貨の争いに向かうであろう。いま米ドルが果たしている役割を中国元が担おうとするということだ。

実際に、中国はアメリカの財務省証券の購入量を減らしている。アメリカ政府の負債を請け負っているのだが、それをやめ始めている。

中国が、一帯一路(BRI)で行っているような包括的な政策を、国際社会で行うとしたら、新しい経済的なインフラ、つまり国際的経済制度を作ろうとすると思われる。現在の国家資本主義では、大規模なバブル崩壊が10年に一度程度起き、その都度政府は民間企業を助け、経済格差が広がる。リーマン・ショックを起こしたのはアメリカ的資本主義(とイギリス)だが、中国もたいへんな痛手を負った。こうなると新しい経済制度が必要はないとはいえない。

ここで中国人民銀行がすでに制度設計を終えた「デジタル人民元」制度(2019年12月3日付、日本経済新聞)を、中国国内からはじめて、グローバルに拡張しようとするかもしれない。
(おわり)

参考文献:
Jetro:
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/11/a6b498978cb992f9.html

日経新聞、2019年12月3日:
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO52853220S9A201C1EA2000?type=my#IAAUAgAAMA

市民が主張する五大要求の落書き。人々が手を携えている。ジョン・レノンの名前を取って、レノン・ウォールと呼ばれる場所

投稿者:

crow tanaka

国際政治アナリスト(都市政策) 音楽社会学 上智大学非常勤講師

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