「日本人」, EDM系PVの場合   How do PVs Describe “Japanese”?

PVは、一般の視聴者用に丹念に作られた映像であり、アート方向に偏り過ぎることがない。だからその時代の特徴を捉えた作品になりやすい。2018年秋以降、東京を舞台にしたPV、とくにEDM系PVがいくつかまとめて出てきたので比較してみたい。どれも再生回数は100万を優に越えている。

ここに貼ったものは、例外はあるが北アメリカ系のDJ、ミュージシャンのものなので、日本人をどう見ているか、またどのように表現することで「日本」らしい誰かだと理解させられるかを考えているかが推定できる。一般的に「日本人」の観点からだとこういうPVは奇妙でエキゾチックに見えることが多い。そして「日本人」を日常のように正確に描写していると「日本人」は自らを奇抜だと殊更に把握する。

アジア人、とくにここでは「日本人」だが、これはセシル・B・デミル監督『チート』の主演早川雪洲から連綿と続く日本人表象の流れではあるが、長くなるので、ここ数ヶ月だけを見てみよう。

まず、カナダ系のショーン・メンデスとゼッドZeddの「Lost in Japan」

君がいるホテルに飛んでいきたい、という願いがストレートに歌われている歌詞だ

PVの元ネタは、ソフィア・コッポラ監督の「Lost in Translation」でこのフレーズ自体が英語圏で定着、いまでも雑誌の文章などにしばしば顔を出す。
新宿東口の映像を加工した動画を使用し、パークハイアットのエレベーター・シーンを再現しているが、この撮影は日本では行われていない。アメリカで日本を模倣・再現している。初めの部分で駐車場が映り込んでいるが、こういうパーキングは日本にはない。

登場する「日本人」は、ソフィア・コッポラの「日本人」とは異なり、会話もすれば、感情表現もする人たちとして描かれている。これが撮影シーン:

またソフィア・コッポラの元ネタ、トレーラーはこちら。2003年公開映画です。スカーレット・ヨハンソンが、マーヴェルの一員になるはるか以前、a long long time agoです(笑)


さて次に、最近来日したJonas Blue(ジョナス・ブルー)。この人はイギリス系だが、おそらくアラブ系の出自ではないかと思われる。曲は「We Could Go Back」

この曲は、「僕たちはやり直せたのじゃないか」という後悔が歌詞に率直に書かれている曲で、ギターのリフが印象的な佳曲。
PVは、お台場、ゆりかもめ、虎ノ門、東京駅丸の内口、新宿東口、裏原宿といった「定番」をロケーションで撮影。コレオグラフィーが映像に変化を与えていて、色彩もカラフルだ。ここで出てくる「日本人」のイメージは、日本を異文化として経験する人たちからの視点の「日本人」でしょう。しかし、「日本人」にも、この裏原で出てくる衣装の人もいる。確実にいる。つまり日本人の文化的な境界はいま曖昧になっていると言えそうだ。

さて最後、これも最近来日したばかりのW&WとArmin van Buurenの共作のPVです。曲名は「Ready to Rave」で、意図的にraveというジャンル名を使っているのが気になります。こちらは「日本」の先端的なイメージと上海とドバイらしき都市のイメージが繋がっています。ひらがなと漢字の混交が、新しさを感じさせるのか、これは上記の「Lost in Japan」でも見られる傾向です。

このように東京や大阪らしい光景をプロモーション・ヴィデオPVに入れ込むのは、昨日今日始まったことではなく、ポーター・ロビンソンやポップスですが復活したアヴリル・ラヴィーンなどでもそうですし、中田ヤスタカなども東京をテーマにしたPVが何本かあります。

こうやって見てみると、メガロポリス東京のイメージはすでに一人歩きし、「実際の東京」とは別の、映画「ブレードランナー」を体現している場所、それがリアルな「東京」という位置付けに完全になったのだろう。
東京人は外見ではその意思を表情に出さず、あるとき突如動き出し、一方ふだんは会話もしないというイメージだけが生産、コピーされる。そういった行動が、未来的なものを東京を通して提示していると見られているのだろう。(この項おわり)

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投稿者:

crow tanaka

国際政治アナリスト(都市政策) 音楽社会学 上智大学非常勤講師

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